定額残業制の実務への影響について
定額残業制の実務への影響について
「定額残業制」という仕組みを導入したいというご要望をいただくことがあります。

「定額残業制」とは、ある一定割合の残業代を給与等で組み入れる方式をいいます。

労働基準法は、労働条件の最低基準を示すものであり、労働基準法における所定の計算方法による金額以上を支払っていれば、労働基準法第37条(割増賃金)の規定には反しないということになります。

しかし、現時点では、法律や行政等における明確な基準はなく、これまでの裁判例の蓄積により、「定額残業代」については、おおむね下記3つの要件が必要と解釈されるのが一般的です。

  1. 残業代の趣旨で支給されていること
  2. 残業代部分と通常の賃金とが判別できること
  3. 定額残業として見込まれている額(時間)から不足した分を精算する合意またはその取り扱いがなされていること
  
なお、東京労働局のパンフレットには、次のように書かれています

Q. 残業手当の計算が面倒なので、実際の残業時間にかかわらず「業務手当」として一律で支給したいのですが?

A.  一律支給する場合には、業務手当が残業手当の定額払いであることを就業規則等に明記することが必要です。また、実際の残業時間から計算した時間外手当より「業務手当」が低い場合は、その不足額も合わせて(つまり、実際に計算した時間外手当全額を)支払わなければなりません。なお、実際の残業手当と業務手当との過不足を翌月に繰り越してはなりません。

「しっかりマスター 労働基準法 割増賃金編」より

・・・というわけで、就業規則に明記していない場合、上記ケースにおいては

  • 業務手当として、定額残業制を設けたにもかかわらず、就業規則に記載をしていなかった
  • 就業規則の内容を変更したにもかかわらず、変更届を所轄労働基準監督署長に行っていなかったこと

などを理由に、労働基準法89条違反として、行政指導が行われるケースがあるそうです

また、当然のごとく、実際の残業時間から計算した時間外手当よりも業務手当のほうが少なかった場合に、その不足額もあわせて、実際に計算した時間外手当全額を支給していない場合は、労働基準法37条1項違反とされる可能性があることはいうまでもありません

なお、平成24年3月8日に最高裁で出た判例(テックジャパン事件 最1小判平24.3.8労働判例1378号80頁)での判断とともに、櫻井裁判官の補足意見として、下記のようなものが出ています

特に、櫻井裁判官の補足意見は、今後民事の判断でも行政指導の観点でも、実務上大変大きな影響を与えているとのことでした。
テックジャパン事件あたりから、「定額残業制」については、厳しい裁判例が多くなってきています。
特に、アクテイリンク事件の裁判の動向が注目です。

もっとも、職員への健康への配慮等を考えれば、割増賃金など人件費削減の目的での「定額残業制」の安易な導入は、控えた方がよいと考えられます。

基本給 月額41万円
  • 月間総労働時間が180時間を超えた場合にはその超えた時間につき1時間当たり一定額を別途支払い
  • 月間総労働時間が140時間に満たない場合にはその満たない時間につき1時間当たり一定額を減額

という雇用契約。

→月間180時間以内の労働時間中の時間外労働がされても、基本給自体の金額が増額されることはない。
  • 月額41万円の全体が基本給とされており、その一部が他の部分と区別されて労働基準法37条1項の規定する時間外の割増賃金とされていたなどの事情はうかがわれない
  • 上記の割増賃金の対象となる1か月の時間外労働の時間は、1週間に40時間を超え又は1日に8時間を超えて労働した時間の合計であり、月間総労働時間が180時間以下となる場合を含め、月によって勤務すべき日数が異なること等により相当大きく変動し得るものである。

    そうすると、月額41万円の基本給について、通常の労働時間の賃金に当たる部分と同項の規定する時間外の割増賃金に当たる部分とを判別することはできないものというべきである。

「上告人が時間外労働をした場合に、月額41万円の基本給の支払を受けたとしても、その支払によって、月間180時間以内の労働時間中の時間外労働について労働基準法37条1項の規定する割増賃金が支払われたとすることはできないというべきであり、被上告人は、上告人に対し、月間180時間を超える労働時間中の時間外労働のみならず、月間180時間以内の労働時間中の時間外労働についても、月額41万円の基本給とは別に、同項の規定する割増賃金を支払う義務を負うものと解するのが相当である」

「また、労働者による賃金債権の放棄がされたというためには、その旨の意思表示があり、それが当該労働者の自由な意思に基づくものであることが明確でなければならないものと解すべきであるところ、そもそも本件雇用契約の締結の当時又はその後に上告人が時間外手当の請求権を放棄する旨の意思表示をしたことを示す事情の存在がうかがわれないことに加え、上記のとおり、上告人の毎月の時間外労働時間は相当大きく変動し得るのであり、上告人がその時間数をあらかじめ予測することが容易ではないことからすれば、原審の確定した事実関係の下では、上告人の自由な意思に基づ時間外手当の請求権を放棄する旨の意思表示があったとはいえず上告人において月間180時間以内の労働時間中の時間外労働に対する時間外手当の請求権を放棄したということはできない

「以上によれば、本件雇用契約の下において、上告人が時間外労働をした月につき、被上告人は、上告人に対し、月間180時間以内の労働時間中の時間外労働についても、本件雇用契約に基づく基本給とは別に、労働基準法37条1項の規定する
割増賃金を支払う義務を負うものというべきである。」

「なお、本件雇用契約において

  • 基本給は月額41万円と合意されていること
  • 時間外労働をしないで1日8時間の勤務をした場合の月間総労働時間は、当該月における勤務すべき日数によって相応に変動し得るものの、前記2(1)の就業規則の定めにより相応の日数が休日となる

ことを踏まえると

おおむね140時間から180時間までの間となることからすれば、本件雇用契約における賃金の定めは、通常の月給制の定めと異なる趣旨に解すべき特段の事情のない限り、上告人に適用される就業規則における1日の労働時間の定め及び休日の定めに従って1か月勤務することの対価として月額41万円の基本給が支払われるという通常の月給制による賃金を定めたものと解するのが相当であり、月間総労働時間が180時間を超える場合に1時間当たり一定額を別途支払い、月間総労働時間が140時間未満の場合に1時間当たり一定額を減額する旨の約定も、法定の労働時間に対する賃金を定める趣旨のものと解されるのであって、月額41万円の基本給の一部が時間外労働に対する賃金である旨の合意がされたものということはできない

「これと異なる原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり、論旨はこの趣旨をいうものとして理由がある。」
【櫻井裁判官の補足意見】
本件に関し,労働基準法等の趣旨を踏まえ若干指摘しておきたい点があるので,補足意見を付しておきたい。
1 労働基準法37条は,同法が定める原則1日につき8時間,1週につき40時間の労働時間の最長限度を超えて労働者に労働をさせた場合に割増賃金を支払わ
なければならない使用者の義務を定めたものであり,使用者がこれに違反して割増賃金を支払わなかった場合には,6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せ
られるものである(同法119条1号)。
 このように,使用者が割増の残業手当を支払ったか否かは,罰則が適用されるか否かを判断する根拠となるものであるため,時間外労働の時間数及びそれに対して支払われた残業手当の額が明確に示されていることを法は要請しているといわなければならない。そのような法の規定を踏まえ,法廷意見が引用する最高裁平成6年
6月13日判決は,通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分とを判別し得ることが必要である旨を判示したものである。本件の場合,その判別ができないことは法廷意見で述べるとおりであり,月額41万円の基本給が支払われることにより時間外手当の額が支払われているとはいえないといわざるを得ない。
 便宜的に毎月の給与の中にあらかじめ一定時間(例えば10時間分)の残業手当が算入されているものとして給与が支払われている事例もみられるが,その場合は,その旨が雇用契約上も明確にされていなければならないと同時に支給時に支給対象の時間外労働の時間数と残業手当の額が労働者に明示されていなければならないであろう。さらには10時間を超えて残業が行われた場合には当然その所定の支給日に別途上乗せして残業手当を支給する旨もあらかじめ明らかにされていなければならないと解すべきと思われる。本件の場合,そのようなあらかじめの合意も支給実態も認められない。
2 さらに,原審は,本件では手取額を大幅に増加させることとの均衡上変則的な労働時間が採用されるに至ったもので合理性を有するとして,個々の労働基準法の規定や同法全体の趣旨に実質的に反しない限りは私的自治の範囲内のものであるとしているが,契約社員としての月額41万円という基本給の額が,大幅に増額されたものである,あるいは格段に有利な給与設定であるとの評価は,原審の認定した事実関係によれば,派遣労働者である契約社員という立場を有する上告人の給与については妥当しないと思われる。確かに,41万円という額は,正規社員として雇用される場合の条件として被上告人から提示された基本給月額と単純に比較すれば,7万円余り高額ではあるものの,上告人は契約社員であるため正規社員と異なり,家族手当を始めとする諸手当,交通費,退職金は支給されず,毎年度の定期昇給も対象外であるなど,契約内容の全体としては,決して格段に有利な給与設定といえるほどのものとは思われない。さらに,本件の場合,数か月を限った有期雇用の契約社員であるから身分は不安定といわざるをえず,仕事の内容等も自由度や専門性が特別高く上告人の裁量の幅が大きいものとも思えず,原判決のいうように私的自治の範囲の雇用契約と断定できるケースとは大きな隔たりがあるように思われる。
3 労働基準法の定める労働時間の一日の最長限度等を超えて労働しても例外的に時間外手当の支給対象とならないような変則的な労働時間制が法律上認められているのは,現在のところ,変形労働時間制,フレックスタイム制,裁量労働制があるが,いずれも要件,手続等が法令により相当厳格に定められており,本件の契約形態がこれらに該当するといった事情はうかがわれない。
 近年,雇用形態・就業形態の多様化あるいは産業経済の国際化等が進む中で,労働時間規制の多様化,柔軟化の要請が強くなってきていることは事実であるが,このような要請に対しては,長時間残業がいまだ多くの事業場で見られ,その健康に及ぼす影響が懸念されている現実や,いわゆるサービス残業,不払残業の問題への対処など,残業をめぐる種々の状況も踏まえ,今後立法政策として議論され,対応されていくべきものと思われる。
本件に関し,労働基準法等の趣旨を踏まえ若干指摘しておきたい点があるので,補足意見を付しておきたい。
  1. 労働基準法37条は,同法が定める原則1日につき8時間,1週につき40時間の労働時間の最長限度を超えて労働者に労働をさせた場合に割増賃金を支払わなければならない使用者の義務を定めたものであり,使用者がこれに違反して割増賃金を支払わなかった場合には,6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられるものである(同法119条1号)。このように,使用者が割増の残業手当を支払ったか否かは,罰則が適用されるか否かを判断する根拠となるものであるため,時間外労働の時間数及びそれに対して支払われた残業手当の額が明確に示されていることを法は要請しているといわなければならない。そのような法の規定を踏まえ,法廷意見が引用する最高裁平成6年6月13日判決は,通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分とを判別し得ることが必要である旨を判示したものである。本件の場合,その判別ができないことは法廷意見で述べるとおりであり,月額41万円の基本給が支払われることにより時間外手当の額が支払われているとはいえないといわざるを得ない。 便宜的に毎月の給与の中にあらかじめ一定時間(例えば10時間分)の残業手当が算入されているものとして給与が支払われている事例もみられるが,その場合は,その旨が雇用契約上も明確にされていなければならないと同時に支給時に支給対象の時間外労働の時間数と残業手当の額が労働者に明示されていなければならないであろう。さらには10時間を超えて残業が行われた場合には当然その所定の支給日に別途上乗せして残業手当を支給する旨もあらかじめ明らかにされていなければならないと解すべきと思われる。本件の場合,そのようなあらかじめの合意も支給実態も認められない。
  2. さらに,原審は,本件では手取額を大幅に増加させることとの均衡上変則的な労働時間が採用されるに至ったもので合理性を有するとして,個々の労働基準法の規定や同法全体の趣旨に実質的に反しない限りは私的自治の範囲内のものであるとしているが,契約社員としての月額41万円という基本給の額が,大幅に増額されたものである,あるいは格段に有利な給与設定であるとの評価は,原審の認定した事実関係によれば,派遣労働者である契約社員という立場を有する上告人の給与については妥当しないと思われる。確かに,41万円という額は,正規社員として雇用される場合の条件として被上告人から提示された基本給月額と単純に比較すれば,7万円余り高額ではあるものの,上告人は契約社員であるため正規社員と異なり,家族手当を始めとする諸手当,交通費,退職金は支給されず,毎年度の定期昇給も対象外であるなど,契約内容の全体としては,決して格段に有利な給与設定といえるほどのものとは思われない。さらに,本件の場合,数か月を限った有期雇用の契約社員であるから身分は不安定といわざるをえず,仕事の内容等も自由度や専門性が特別高く上告人の裁量の幅が大きいものとも思えず,原判決のいうように私的自治の範囲の雇用契約と断定できるケースとは大きな隔たりがあるように思われる。
  3. 労働基準法の定める労働時間の一日の最長限度等を超えて労働しても例外的に時間外手当の支給対象とならないような変則的な労働時間制が法律上認められているのは,現在のところ,変形労働時間制,フレックスタイム制,裁量労働制があるが,いずれも要件,手続等が法令により相当厳格に定められており,本件の契約形態がこれらに該当するといった事情はうかがわれない。
 近年,雇用形態・就業形態の多様化あるいは産業経済の国際化等が進む中で,労働時間規制の多様化,柔軟化の要請が強くなってきていることは事実であるが,このような要請に対しては,長時間残業がいまだ多くの事業場で見られ,その健康に及ぼす影響が懸念されている現実や,いわゆるサービス残業,不払残業の問題への対処など,残業をめぐる種々の状況も踏まえ,今後立法政策として議論され,対応されていくべきものと思われる。」

★アクテイリンク事件(東京地判平24.8.28労働判例1058号5頁)

【要旨】  
周知されている賃金規程上「時間外労働割増賃金で月30時間相当分として支給する」と規定されている営業手当について

定額残業代の支払が許されるためには
  1. 実質的に見て、当該手当が時間外労働の対価としての性格を有していること(条件(1))
  2. 支給時に支給対象の時間外労働の時間数と残業手当の額が労働者に明示され、定額残業代によってまかなわれる残業時間数を超えて残業が行われた場合には別途精算する旨の合意が存在するか、少なくともそうした取扱いが確立していること(条件(2))が必要不可欠であるというべきである。」とした上で、「営業手当は、営業活動に伴う経費の補充または売買事業部の従業員に対する一種のインセンティブとして支給されていたとみるのが相当であり、実質的な時間外労働の対価としての性格を有していると認めることはできない。
などとして、営業手当は残業代ではないとした。

last update 2014.7.31 記事の内容は、この時点での動向としてご判断ください 
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